北天寮にもどって翌日の予習をしていると、明央がトンと祥子の前に座った。

「明央先輩、どうしたんですか?」

いつもなら、今日はどうだった?とかいじめられなかったか?ときいてくれる明央が、暗い表情でにらんでいる。

「明央先輩・・・?」


明央は目に少し涙をためながら、声を無理やり押し出すようにつぶやく。


「俺の兄嫁さんがさっき、息を引き取ったって・・・連絡があってさ。」


「えっ?じゃあ先輩、早く準備してお葬式に行かなきゃ!」


「だめなんだ。俺は行きたくない。」


「先輩?・・・・・もしかして・・・兄嫁さんが好きだったんですか?」


「たぶん。
こんなに俺は動けなくなるなんて思ってなかったんだ。
兄貴と結婚したときに、ちゃんと心の整理はできたと思ってたんだ。

俺より2つ年上の女だったけど、すごくきれいで明るくてかわいかった。
とても命にかかわる病気になるなんて思ったこともなかった。

なのに・・・妊娠で悪性の筋腫が見つかって・・・入院しながら出産して。
でも、彼女は助からなくて。」


祥子は明央の前で座りなおすと、きっぱりといった。


「じゃ、なおさらしっかりとお見送りをしてあげないと!
たとえ、思いが報われない相手だとしても、先輩にとっては大切なひとだったんです。
先輩を大人の男にしてくださった方なんです。

お兄さんだって弟が自分の彼女を思ってることくらい知ってたんじゃないですか?」


「ああ、なんとなくわかってたようだ。
だから、必ず来いとは言われなかった。」


「そうですか。
お兄さんはすべてわかったうえでがんばってこられたんですね。

きっと今頃、心が血を流してるかもしれないですね。
すぐ行ってあげるべきです。

2人でお別れを言ってあげてください。ねっ。」


「そうだな。・・・うん。
悪いな、おまえにこんなこと打ち明けてしまって。

でもよかったよ。俺の心は少し元気をもらえた気がする。
兄貴の心の支えになってくる。」


「そうですね。いってらっしゃい。」


「おお。」


その夜のうちに明央は兄の住む、田舎のペンションへと向かっていった。


「すごいなぁ、明央先輩もご両親は早くに亡くなってしまったとはいえ、お兄さんが農家でペンション経営してるなんて。
やっぱりセレブな男子校なんだなぁ。」


明央には申し訳ないが、その日部屋のカギをしっかりかけておいて、祥子は部屋のシャワールームを使い、Tシャツとジャージというラフな格好になれた。

いつもはブラジャーをきちんとつけてから胸が目立たないコルセットをしているが、そろそろそれも暑くなってきたと思える時期だった。