海賊王女と無敵な人魚の王子さま

『イリス。イリス……!』


 その声は……愛しいひと。


 海の中でもはっきり聞こえる優しい声に『アヴェルスさま』って返そうとして、かぽっ、と、口の中の空気が逃げてゆく。


『……あ』


 わたしの身体は、相変わらず、石のように海に沈んでゆき。


 口から逃げた空気の替わりに、海水が入り込むかと思った時だった。


 目の端に、蒼銀に輝く長い長い髪と、同じ色した鱗とが、ちらり、と見えたなと思った時には、もう。


 アヴェルスは、息をのむほどキレイな顔をわたしに寄せ、唇で唇を塞いだんだ。


『……ん』


 微かな甘みを残して、爽やかな風のような酸素がわたしの口に満たされる。
 

 そして、次の瞬間には、もう。


 わたしは、逞(たくま)しいアヴェルスの両腕に横抱きに抱えあげられ。


 あっという間に、海面に向かって浮き上がろうとしていたんだ。