『あんたなんて、大嫌い』




「…っ…チアキ!」


僕はソファから勢いよく起き上がると、急いで部屋の中を見回した。


…今…チアキの声が、したような…。


部屋の中には、僕の他に誰もいない。


…夢、だったのか。


眠りから覚めた僕は、高ぶった気持ちを落ち着かせるために深呼吸をし、壁にかけた時計に目をやった。


…午前十二時、二十五分。


いい加減、沙奈も起きているだろう。


…ソファから立ち上がり、うんと伸びをして、目をこすった。


…チアキのことは、もう忘れよう。


沙奈のいる部屋の扉の前に立つと、鼓動が速くなる。


目覚めているだろう沙奈は、いったい、どんな反応をするのだろうか。


楽しみで、僕は薄く笑うと、静かに部屋の扉を開けた。


…部屋の片隅、ベッドの上。


紺色のスカートから伸びる、白い脚。


彼女は――ベッドの上で、震えていた。


「…なに…なんで…ここどこ…誰が…?」


…いったい何に、怯えているのだろう?


彼女は恐怖を紛らわすように、延々と、小声で、独り言を呟いていた。


「やだ…誰よ…帰りたい…お母さんっ…」


…君の全てが、愛しい。