…全く、いけない子だよ。


僕はストーカーなんていう、生半可な愛をもって君に接していないのに。


もっと、もっと、美しい愛。


僕は、ストーカーじゃない。


僕はストーカーじゃない僕はストーカーじゃない僕はストーカーじゃない僕はストーカーじゃない僕はストーカーじゃない…。


…一度、肺の中を部屋にこもる沙奈の芳しい香りでいっぱいにすると、僕は彼女に再び声をかけた。


「…これから、君は僕の花嫁だよ。
 …一生、逃さない」


嗚咽を漏らす沙奈を抱きしめると、より一層、揺れた彼女。


そんなに僕に抱きしめられるのが嬉しいのだろうか。


沙奈の、花の香りがする黒髪に顔を埋めると、彼女は「ひっ…」と小さく悲鳴を上げた。


…どうして僕を、怖がるのだろう?


「…好きだよ。愛してる…誰よりも」


少し腫れてしまった左頬を撫でると、びくりと身体を揺り、沙奈は強く唇を噛み締めた。


…そんなことをしたら、沙奈のさくらんぼ色の唇が荒れてしまうじゃないか。


きめ細かな沙奈の肌を右手に感じながら、僕は彼女に笑いかける。


「…今日から、一緒に暮らすんだ。なんと呼んでくれても構わないよ」


「…さいてい、やろう」


「…なんだって?」


訊き返すと、沙奈は口をつぐみ、黙りこくった。


…それで良いよ。


…君の口から、
僕を罵る言葉は、聞きたくない。


もう二度と…あんな思いはしたくない。