僕は足音を忍ばせながら沙奈に近づき、そっと彼女の前にかがんで…そっと、口付けた。
軽く、軽く、触れるだけのキス。
触れたのはほんの一瞬だったのに、まるでずっとキスをしていたような、甘美な錯覚に、陥る…。
「やっ…いやぁあああああ!」
唇を離した瞬間、沙奈が絶叫し、僕は思わず耳を塞いだ。
沙奈の震えがますます、激しくなるのを見た。
「誰!?誰よ!帰してよ!家に帰して!お母さん…!」
「…うるさいなぁ」
僕がそう言うと、沙奈は、ひとりごちるのをやめた。
…そう、余計なことは言わなくていい。
君は黙っているだけでも、僕にとっては煌めく宝石のような価値があるのだから…。
「…誰?」
沙奈が、僕に問うた。
両手は背中の後ろで手錠をかけられ、両足も縄によって拘束されていて、目を隠されている彼女。
…なぜかはわからないけど…最高に、興奮する。
「…僕は、君のことが好きなんだ。
愛してる」
「ストーカー…?」
…誰が、ストーカーだよ?
僕は平手で、思い切り彼女の左頬を打った。
部屋に小気味いいほどの音が響くとともに、僕の右手に快感がほとばしった。
「っ!!」
「僕はストーカーなんかじゃない。僕は
ただ純粋に、沙奈のことが好きなんだ」
「っ…おか…さん…」
彼女が声を潜めて泣き出すのを、僕はやや冷めた気持ちで目していた。



