オレは唇を噛んだ。
師央には謎が多すぎる。
考えがまとまらない。
考えても仕方がない。
今は、現実だけを見るほうがいい。
「まずはここを離れる。走れ。とりあえず、安豊寺の家を目指す」
危険を感じたら、進路を変えればいい。
勘だが、今日の襲撃はこいつらだけだと思う。
そもそも、良識ある住宅地で仕掛けること自体、失策だ。
今ごろ、誰かが通報してるだろう。
伸びてるこいつらは、警察に回収される。
オレは、自分と安豊寺のカバンを拾った。
安豊寺の足に合わせて、坂を駆け上がる。
傷の痛みが拍動している。
でも、たいした深さの傷じゃない。
このくらいなら、すぐにふさがる。



