「輝くん、とりあえず帰りなよ。寧々さんを待たせちゃ怖いんでしょ? わからないところは、メールででも訊いて」
師央に言われて、輝貴はノートを閉じた。
そのとたん、輝貴の腹の虫が鳴る。
師央も茜も、輝貴本人も、同時に噴き出した。
師央は、輝貴と茜を玄関先まで見送った。と言っても、二人の家は三軒隣だ。
「じゃ、また明日ね、しおにぃ」
茜が、寧々そっくりの笑顔で手を振った。
師央は、小さく手を挙げて応える。内心、やっぱり少し戸惑いながら。
師央の初恋は、幼稚園のころだ。
当時大学生だった母が忙しいとき、寧々が師央を迎えに来てくれた。
師央はいつしか、寧々の笑顔が大好きになっていた。



