ざわついたフロア。
なのに。
「あのっ、煥先輩っ」
鈴蘭の声だけは、ハッキリ聞き取れる。
キレイな声、だと思う。
いや、オレの価値基準なんて当てにならないが。少なくとも、オレにとっては。
「何だ?」
「いつも、あんなふうならいいのに」
「は?」
オレは鈴蘭から顔を背けている。
たぶん、鈴蘭も同じだ。
途切れ途切れの声が少し遠い。
「歌ってるときみたいに、すなおな顔、しててくれれば、いいのに。せ、切なそうだった。一生懸命な表情、でした。壮行会のときは、ステージが遠くて。今日、初めて、歌ってる先輩の顔、見ました」



