例えば、親父が本当は危険な仕事をしていたとして、オレは別に驚かない。
伊呂波家は、軍人・武人の家系だ。
大昔からずっと、罪深い商売をしてきた。
親父は自覚があったんじゃないかと思う。
遺産の相続も財産の処分も用意周到だった。
愛車の世話を雄の親父に頼んでたとこまで完璧だった。
じゃあ、親父は案外、後悔してないのか? オレと兄貴を遺して、この世から退場したことを。
いや、それでも、むなしい。
ときどき無性にむなしくなる。
親父が好きだったバイクもロックも、今のオレならわかるのに。
酒はまだ飲めなくても、語り合うことならできるのに。



