「先輩も、この本、気になります?」 「ならない」 「わたし、スクールカウンセラーを目指してるんです。父の影響なんですけどね。この本、父が書いたんです。父は大学教授で、現場にも立ってて、教育の世界では、それなりに有名なんですよ」 鈴蘭は顔のそばに本を掲げた。 チラッと目を走らせる。 著者の苗字は、安豊寺じゃない。 「苗字が違う」 「あ、父は入り婿だから。仕事では旧姓を使い続けてるんです。安豊寺は母方で、先代の預かり手は母でした。わたしを産んだ瞬間、能力をなくしたって」