「あっ、煥先輩。来てたんですか? お待たせしてました?」
「い、いや、別に」
鈴蘭の右の頬が赤くなっている。
右を下にして寝ていたせいだ。
本人も察してるんだろう。手のひらで頬を包んだ。
「わぁ、しっかり寝ちゃってた。本、読もうと思ってたのに」
読みかけの本の背表紙へと、鈴蘭は目を伏せる。
口元は少し笑っている。
照れ笑い、か? 見たことのない表情で、目が惹き付けられる。
「あ……」
オレは何かを言いかけて、言葉に迷う。
「何ですか?」
「……帰る」
わかり切った用件だけ告げた。
オレは歌詞のメモ帳をカバンにしまった。



