安豊寺の声が聞こえたんだろう。 屋敷の門衛がこっちへやって来た。 「お帰りなさいませ、お嬢さま」 オレは中年の門衛に安豊寺のカバンを渡した。 「物騒な連中と鬼ごっこしてきた。門を入るまで、見送らせてくれ」 門衛がオレに軽い疑いの目を向けている。そりゃそうだろう。 見るからに崩れたオレの格好。お金持ちのお嬢さまを見送るには不釣合いだ。 「失礼ですが。お名前を頂戴してよろしいでしょうか?」 オレは、使いたくない名乗りを使った。 「伊呂波煥。“白虎の伊呂波”だ」