「成程…それは確かにまずいな。」
もふもふ…いや、紅太郎さんが、朝食の準備をしながら唸った。
「そうだ。藍は、私という立派な許嫁が居りながら、他の女性に夢中なのだ。」
朱羅のやつ!
帰るなり、父親に言いつけやがって!
「いや、藍君を攻めているのではないよ。まともな男の子なら、綺麗な女性を見れば、ついふらふらとなってしまうのは仕方のないことだ。…朱羅は少し子供っぽいし、まだまだ大人の女性にはほど遠いよ。」
なんて冷静で、理解のある人間…いや、狐なんだ。
狐にしておくには、もったいないお方だ。
「ふん!お父さんの馬鹿。…私の味方じゃないの?」
朱羅はぷくっとふくれた。
どうやら、頬をふくらませるのが癖みたいだ。
「私が心配しているのは、その彼女のことだよ。もちろん私は朱羅の味方だが、だからってライバルが酷い目にあっても良いということはないよ。」
「美貴が呪い殺されたら、藍のせいだな!」
おい、今、何て?
「こっくりさんは人を呪い殺したりするのか?」
「…殺さないまでも、気が狂うことはある。」
紅太郎さん、それ、怖いから!
「藍と私の結婚を邪魔する奴は、こっくりさんの意思に反するから。」
「そう言えば、カラオケ屋でも、彼女の様子がおかしかった。」
僕は、昨日の出来事を二人に話した。
「美貴さんは、神主の娘さんか。結界の中にいる間は、こっくりさんも手出しは出来ないだろうが、外に出たら、まずいぞ。」
「僕はどうすれば?」
狐は少し考えてから、言った。
「彼女と直接会ったり、コンタクトをとらなければ平気だと思うが、一番は君の事を嫌いになってもらうしかないな。」
そんな…。
これからメールしようかな、と思っていた矢先に。
「藍君。こっくりさんの呪いは、我らの祖父母たちが悪いのかもしれんが、青田と赤井の問題だ。そこに無関係な人を巻き込んではいけないと私は思う。…もちろん、藍君にとっては、ツラい事だとは思う。」
自分だって、直接は関係ないのに、狐の縫いぐるみにされてしまった、朱羅のお父さん。
すごく説得力がある、が。…僕に美貴さんを諦める事なんて出来るだろうか?
「なあ、藍。」
うつむいた僕に、朱羅が遠慮がちに話かける。
「藍は、美貴とかいう女のどこが気に入ったんだ?昨日、初めて会ったんだろ?私だって、一昨日初めて藍に会った。」
そう言われてみれば、そうなんだけど。
「美貴さんは、美人だし、大人っぽいし、頭も良さそうだ。…一緒にいると、掌に汗をかくほど緊張するんだ。」
朱羅とは、真逆だよ。
「ふうん。美人で…大人っぽくて、か。ふうん。」
何だよ。
お前なんか、どう頑張っても無理だろ。
さっきも麻季さんに、小学生と間違えられたじゃないか。
