「あれ〜?君、藍君だっけ?!君もランニング?」


あっ…あれは確か、浩紀の幼馴染みの、麻季さん。


彼女も走ってるのか。
意外に多いんだな。


彼女は僕に近づくと、イヤフォンを外した。


「音楽聴きながらだと、意外に疲れないのよ。…ところで、あの子は?も、もしかして…藍君の彼女!?」


麻季さんの声を聴き、朱羅がニコニコしながらやってきた。


機嫌、直ったようだな。

「私は藍のイイナ…」


「違うよ!!妹だよ!!」


しかし、僕は叫ばずにはいられない。


だって…麻季さんに勘違いされたら、つまりさ。

美貴さんにも、誤解されたまま、伝わるかもしれないだろ?


「ふうん、そうなんだ!?似てないね!!」


麻季さんは、朱羅の頭を撫でた。


「中学生?いや、小学生かな?」


「私は高校生だ。…まな板のお姉さん。」


「まなっ…」


朱羅…なんて事を言うんだ!!


「ご、ごめん。うちの妹って…綺麗な女性を見ると、対抗心を燃やすって言うか…その、素直じゃないから。」


「つまりブラコンね。大丈夫よ、妹ちゃん。私、お兄さんに興味ないからさ!」


麻季さん。
はっきり言わなくても。

どうせ僕はモテないけどさ。


「ふうん、命拾いしたな。」

だから、そういう言い方、やめてくれ。


「でも、強敵がいるわよ。美貴って覚えてる?…彼女、藍君のこと気になるみたいだよ。」


「えっ!本当に?」


僕の心臓がドキドキし始め、身体がふわふわした。


美貴さんが、僕のことを…まさか…正夢か?



「ケータイ持ってる?美貴のメアド教えてあげる!…メールしてごらん。」


「も、持ってます…でも、よろしいんでしょうか?」


変な敬語になる。
だって…いきなりの急展開だぜ。


朱羅には悪いが、こいつがランニングに誘ってくれたおかげだな!


「で、でさっ。ちょっとお願いがあるんだけど!」

麻季さんが急に、モジモジし始めた。


???



「あの…こんな事、浩紀に頼めないから…、実は、春人君のメアド、知ってたら教えて欲しいな、なんて。」


あ…なるほど!

麻季さんは、春人とよく喋っていたもんな。

幼馴染みの浩紀には聞きにくいって事か!


「いいよ。…春人も彼女とかいないし。でも、あいつ、上級生にモテるから、頑張って。」


「そ…そうだよね。春人君て、可愛いから…あは、何を言ってんの、私。」


恋する乙女、って感じだな。麻季さん。


そうだよ、恋ってこんな感じだよな。



「じゃあね!藍君、妹ちゃん。バイバーイ!」


麻季さんは腕をブンブン振りながら、風のように走り去って行った。


残された僕を、朱羅は白い目で見ている。


「何だよ?なんか文句ある?」


「藍は、美貴とかいう女を好きなのか?」


なぜ、お前に答えてやる必要がある?


「…その子、呪われるぞ。いいのか?私は知らないぞ。」


ふ…不吉な事を言うなよ!!