【シェイド】

「……」

俺は、一人で本を読んでいた。

誰も来ない部屋でずっと一人で……。

でも、いつも一人って訳ではない。

いつも俺の部屋に遊びに来る黒猫、首に赤いリボンをつけた雌猫で、庭に捨てられているのを拾ったんだ。

まぁ、庭と言っても森の中だがな。

この屋敷には吸血鬼の一族(ヴァンパイア)しか住んでいない。

数十年前のあの事件以来から、親父がこの森の奥深くへと屋敷を移動させた。

その数十年前のある事件というのは、俺が関わった事件だ。

あの日の出来事は、今でも覚えている。

大切な人を失ったあの日、絶望を味わったあの日、今でも夢に出てきて俺を狂わせようとしてくる。

「……」

だから俺は、この部屋に監禁された。

二度と同じ過ちを犯さないように、親父に監禁された。

外に出たくとも出られないから、こうして本を読んでいるわけだ。

まぁ、本を読むのは好きなほうだし。

上の兄たちと違ってな。

「そういや、今日はやけに静かだな」

今日はあの黒猫も来ていない。

ちゃんとした名前はあるのだが、俺はその名前を呼びたくないから、黒猫と呼んでいる。