「羽歌、」
「っ……」
囁くような声なのに、やけに鮮明で。思わず恥ずかしさで俯いた私に、彼は小さく笑った。
「羽歌……
──好きだ」
ぴたりと、動きが止まる。動きだけじゃなく、息さえ止まったようで。きっと、彼を見る私の目は大きく見開かれていたと思う。
「ふざ、けてるの……?」
──そうとしか、考えられない。
「羽紗は、どうするのよ……っ。
あなたがいなきゃ、羽紗が悲しむじゃない……!」
夕咲が寝てるとか、そんなのはもうどうでもよかった。
「なんでそんなに簡単に、思いを裏切ることができるの……?」
──咲乃も、羽紗も、乃唯も。
みんな大嫌い。
岬だって確かに思う相手は簡単に変わってしまった。でも、立場はちゃんと弁(わきま)えてる。
彼は、もし自分にちゃんと彼女がいたら、きっと一途に愛せる人だと私は思ってる。だから、彼と向き合った時に何も言わなかった。



