ベッドに近づけば、彼はスヤスヤ眠っていて。寝顔が、いつもよりも幼い気がした。
「夕咲、起きて」
軽く彼を揺する。そうすれば、眠そうに彼が目を開けて、「夕咲」と再び口にしようとしたとき。
「、っ」
ぐっと腕を引かれた。
「……羽紗、」
──寝ぼけ、てる?
そもそも、私は羽紗じゃない。私を押し倒す状態になっているいま、誰かが見に来たら完璧に誤解される。
「夕咲、ちょっと……寝ぼけてないで、」
「……なよ」
「え?」
「もう、どこにも行くなよ……」
──夕咲らしくないと思ったのが本音だった。
いつも飄々としている彼が、熱のこもった瞳で私を見下ろしていて。そこに余裕なんてものは、ひとつもなくて。



