神無月の令嬢じゃなくて。



「ありがとう。とっても嬉しい」



純粋に、私を見てくれた人がいるという事実だけで、私はとっても幸せ。──ただ、ひとつだけ。



「ごめんなさい。

正直な話、もう誰も好きになりたくないの。だから、誰とも付き合えない……」



──もう、好きになりたくないのが本音だった。彼は、まだ誰かを信じることがこの先できるけれど。



私は、もう好きになることを諦めたの。



あんな思い、したくない。神無月に生まれなかったら、好きになれたかもしれない妹に、心の支えを奪われるだなんて思わなかったから。




「ごめんなさい。

せっかく、好きって言ってくれたのに」



私はその言葉に、気持ちに、応えられない。



──岬は何かを考え込むようにして、それから、「この先、」と口を開く。



「誰も、好きにならないのか?」



「そのつもりよ」



「咲乃が……戻ってきたら?」



唇を噛む。咲乃が、戻ってきたら。私の決断は揺らいでしまうかもしれない。でも、きっとその隣には、私と同じ顔の双子の妹がいるんでしょうね。