その時に、悟ってしまった。
きっと澪には、本命の男がいて。それがいま部屋の前にいる男で、俺はただの遊び。──だから。
「ごめんね、ユウくん。
ちょっと部屋の片付けしてたから、出るの遅くなっちゃって」
「それならいいよ。
ひとり暮らしのお祝いしような」
「ふふっ、うん」
その男が来るのを知っていて、でも、余計な相手である俺の方が来てしまった。それを本命に知られるわけにはいかなくて、俺を追い返した。
──だって、扉を開けた時の澪の表情は、思わず見惚れるほどに嬉しそうだった。
「……はっ」
ばか、みたいだよな。そうだよな。年の差いくつだと思ってんだよ。──上手くいってるのが、おかしかった。
それなのに、俺はただ付き合えたことに浮かれてて。本当に、ばかみたいだ。
──そのまま、どうやって自分の家まで帰ったのかはわからない。でも、部屋に入ったら、小さな箱とメモが置かれていた。
箱の中身は、中学生じゃ買えないような値段のボールペンで。
メモには、『さようなら。もう、会いにこないで』の文字と。
──『お誕生日おめでとう』
どうしようもないぐらい、俺に現実を突きつける文字だけが、手元に残っただけだった。



