「どうぞ」と通してくれた羽歌の家に入れば、羽歌らしいというか、なんというか。そこは随分と片付けられていた。
つーか、さすが高級マンションだよな……。すげー広いんだけど。
「で、話って……?」
紅茶を淹れてくれた羽歌が、ソファに腰掛けて優しく尋ねてくる。わずかに距離をあけてソファに座ると、羽歌は俺を見つめた。
「……俺が初め、お前のこと嫌ってたのは知ってるだろ」
「ええ、もちろん」
「嫌いとまではいかねぇけど、女は信用できなくなったんだよ。──数年前に」
もう、簡単に信用しないと決めたあの日から。俺はこの話を、幹部のあいつらと。──羽紗にしか、話したことがない。
「中学の……2年のとき」
俺には、幼なじみがいた。──6つも年上の、女子大生の幼なじみ。
──〝七瀬 澪〟
それが、彼女の名前で。
俺は小さい頃から遊んでくれていた澪が大好きだったし、それはいつの間にか恋愛感情へと変わっていた。
そして、澪もいつからか俺の気持ちには気づいてたんだろう。
「付き合って」
──そう言った俺に、「やっぱりね」と笑った澪は、「いいわよ」と迷うことなく返事をくれた。



