「じゃあ、俺はこれで」



「ああ」



彼に一度頭を下げてから、神無月の豪邸を出て、車で家に戻る。

その途中で、スマホが鳴って。電話に出れば、「今から来れるか?」とハチの声が聞こえる。



「別にいいけど、なんかあったのか?」



『いや、珍しくノンが来てる』



「……わかった。ちょうど出先だしな」



ノンとは、あのバーの〝オーナー〟のこと。本名は知ってるけど、俺もハチたちもノンとしか呼ばない。




それが本人のこだわりだから、いまの幹部たちにもノンと名乗ってるはずだ。

信じてないとかそんな理由じゃなくて、単純にあいつはフェミニストだから。



基本的に、オーナーって呼ばれるのが好きらしい。……変な趣味持ってるよな。



「そういえば、俺もちょうど話あったんだよ。すぐ向かうから」



『ああ』



羽歌が、羽紗の居場所を知ってる。それが事実かどうか確かめたかったけどな。また今度でいいか。



──もう、焦る必要なんてないだろ。羽歌は、自分のものになる。そう思うのに、どうしてか罪悪感だけが広がって。

それに気づかないふりをして、ハチたちの元へと向かった。



【和泉sideend】