乃唯が、私を引き止める。
どうしたんだと顔を上げれば、彼は優しく笑って「和泉さんと幸せにな」と言ってくれた。
──どうも、私の周りにはお人好しが多い。切なくなるほどに優しい人たちばかりだ。
「うん、乃唯もね」
ひらりと手を振って、和泉の元に駆け寄る。そうすれば、「おかえり」と笑った和泉が私の指に、するりと輝きを放つ輪をはめた。
「これ……」
「婚約指輪。
俺ら、婚約者だったのに渡してなかったからな。プロポーズはまた今度」
ねぇ、和泉。
「こんなところで渡さなくても……」
「はぁ?ほかの奴らに取られねぇようにわざわざ小っ恥ずかしいこと人前でやってんだろ」
「はいはい。ありがと」
「軽すぎかよ……」
──その言葉が、既にプロポーズじゃないの。そばに、いてくれるんでしょう?
どこからともなく冷やかしが上がって、原因の癖にため息をついた和泉が、くっと私の腕を引いた。



