優しく聞いてくれる彼に、首を横に振るけれど。和泉はそんなのじゃ、納得してくれなくて。



「何もないって……言ってるじゃない」



ふわりと抱きしめられて、背後で扉が閉まる。和泉に抱きしめられるのは、嫌いなの。



──嫌でも、あの日を思い出すから。



「俺……これ以上、

お前が悲しんでんの見たくねぇんだよ」



あの日も、私を抱きしめてくれたのは和泉だった。抱きしめて、泣いていいって私の頭を撫でて、ずっとそばにいてくれた。



──私が縋れるのは、和泉だけだった。




「っ、」



じわりと、理由もなく涙が滲んで。



「別に、何もないのに……っ、」



私は、やっぱり和泉を縋ってしまう。頼ってしまう。甘えて、結局は彼を傷つける。



「胸が、痛いの……っ。

羽紗の話をするたびに、っ痛くて、」



ぎゅ、と彼の服を握る。落ち着かせるように頭を撫でる手だって、あの日のように優しいから、それが余計に涙をさそう。



──嫌いだなんて、嘘だった。自分が弱くなるたびに和泉を縋るのが嫌で、弱い自分が嫌いなだけだったのに。