「……確かに、かなり傷つく方法ね」



「だろ?」



「あなたが、かなり傷つくわ」



「………」



「もちろん私にも、ほかのみんなにも傷を残せるけど。

一番傷つくのは、きっとあなたよ」



男に襲われたという傷が私には残る。彼らには仮にも姫だった女が襲われたという傷が。──でも、傷つけてしまった彼がきっと一番傷つくから。



「いまならまだ、引き返せる」




彼が訝しげな表情を見せたかと思えば、チッと舌打ちして。肩よりすこし下の腕を押さえつける。



──あの日。



代わりに乃唯が傷ついた日。



男たちに触れられたその場所は、あの時の私にとって不快でしかなかった。──過去に、一度だけ。私は付き合っていた咲乃と大喧嘩したことがある。



内容までは覚えてないけど、その日に私は、いま目の前にいる佐原と同じことを咲乃にされそうになった。

もちろんそこに愛がなかったわけじゃないけど。



怒りを募らせた彼を受け入れることなんて出来なくて、ぐっと腕を掴まれたのでさえ、私にとっては恐怖でしかなかった。



──結局私が泣いたせいで、彼は我に返って何度もごめんと謝ってくれたけど。

そのとき掴まれた腕を同じように掴まれると、あの時の恐怖が蘇って気持ち悪くなる。