「神無月さん、こんばんは」
「あら、こんばんは」
ホテル内のパーティー会場でも、どこぞの企業の社長や御曹司、議員の息子などに声をかけられることも多くて。
ふわりと微笑んで優雅に会話していれば、それだけで神無月の株は上がる。──ほとんどが、神無月と友好を深めたい人たちばかりだから、笑っておいて損はない。
「羽歌。お前はもう下がっていい。
いつもみたいにスイートルームを予約してあるからな」
パーティーが後半に差し掛かった頃。お父様にそう言われて、パーティー会場を抜けた後、エレベーターで最上階のスイートルームへと上がる。
──部屋についた瞬間、ベッドになだれ込んだ。
「っ、」
蘇るのは、つい数時間前の羽紗と咲乃ふたりの光景。偶然ならばいい。事故ならばそれでいい。
笑って許すから。
だから、お願い。わざとだなんて、言わないで。
──それでも、連絡する勇気が出なくて。こぼれる涙が、シーツとドレスに染み込んでいく。涙が落ちたところは、濃い青が真っ黒に染まっていて。
まるで私の心の中だな、なんて。涙が止まらないまま、そんなことを思っていたら。
──ぼうっとしていたからなのか、泣いていたからなのか、嗚咽のせいなのか。気づかなかった原因はわからないけれど、私は誰かに優しく抱きしめられていた。



