──きっと、咲乃のほうが私のことをたくさん知ってる。でもそれは必然的なもので、どうしようもないこと。
「でも、あなたは勝てるわよ」
「………」
「岬は、いま私の彼氏なの。
咲乃はもう〝過去〟の人なのよ」
それが勝ち負けとどう関係するのか、岬ならわかるでしょう?──くしゃりと顔を歪めた岬。
でも、それは苦しくて歪めてるわけではなくて。
「そーだな。
悪い、ちょっと焦った」
──私の言葉を受け入れたから、すこし顔を歪めただけ。岬ならわかってくれると、信じてたもの。
「でも、いいわよ」
「ん?」
「いつかは分かることだから……
帰ったら、話すわ。ふたりのこと」
「羽歌……」
「だから、早く帰りましょう?」
急かせば、彼はふっと笑って「そうだな」と私を促す。いつの間にか乗り慣れた彼のバイクの後ろ。
〝当たり前〟になってきてるのだから、今さら壊す必要なんてどこにもないでしょう?



