「羽歌……帰るか?」
私の口元から手を離して、尋ねてきた岬にこくりと頷く。昨日のうちに倉庫から荷物は運んだし、私は羽紗の身代わり。
──もう、彼らと関わる必要はない。
「ん、わかった」
岬が私の腕を引いて、「俺ら帰るから」と乃唯に告げる。そうすれば、乃唯が「羽歌」と私を呼んで。
「気が向いたらいつでも来ればいい。
お前も身代わりだったとしても姫なんだから、倉庫に出入りしてもなんも言わねぇよ」
──馬鹿、ね。私が、羽紗と咲乃を嫌ってるって知ってるくせに。そんなところにわざわざ行く必要なんてないんだから。
「きっと、気が向くなんてことないわよ」
それだけ言って満足した私を見た岬は、腕を引いて歩き始める。
振り向くことなく歩いて、もうみんなの姿が見えないだろうというところで振り返れば、岬が「よかったのか?」と聞いてきた。
「何がダメなの?」
「……いや。今日も家泊まるんだろ」
「うん、お邪魔します」
岬が過去と向き合った日から、数日経った今は岬の家にお邪魔してる。和泉とは、時折連絡を取り合うほどで。
──いとこの距離を、ちゃんと保つことが出来てる。



