「羽歌!」



隣にいた岬に名前を呼ばれたけど、止まれるわけがない。そのまま足を止めることなく引き返していたら、ぐいっと強く腕を引かれて。



「やっ、離し──」



「落ち着け、俺だから」



耳元で聞こえた岬の声と息遣いに、動きが止まる。じっとした私を自分の方に向かせた彼は、優しく抱きしめてくれた。



「っ、岬」



「大丈夫だから」




ぽんぽんと頭を撫でてくれる岬のシャツを、思わずぎゅっと握る。──だって、どうすればいいのよ。



「よかった……

そんなに遠くまで行ってなくて」



逃げてきたはずなのに近くで聞こえた稀沙の声に、体が震える。夏なのに、どうしようもなく寒く感じるのは……。



「──羽歌。ひさしぶり」



びくりと、肩がはねる。



視界に入った時から、どうやって向かい合えばいいのかわからなくて。咄嗟に逃げてしまった。──本当なら、ずっと会いたくて堪らなかった人。



「咲、乃……」