「ああ、言ってなかったっけ。
──俺、彼女いるんだよね」
「………」
「羽歌ちゃん?」
「……なんで1ヶ月近く一緒にいて知らなかったのかしら」
「柚は俺が心響にいるときは邪魔しないし、連絡もしてこないからね。
家が隣だから、帰ったら大抵俺の部屋にいるし」
どうやら、稀沙の彼女はとてつもなく理解力のある子らしい。確かに控えめな感じだし、雰囲気がどことなく羽紗に似てる。
目が合うと、ふわりと笑ってくれた。
「初めまして。井上 柚(いのうえ ゆず)です。
稀沙くんがいつもお世話になってます」
礼儀正しいし、稀沙の彼女と言われても納得できる。いや、ほかのメンバーがダメとかそういうわけじゃないんだけど。
「はじめまして。神無月羽歌です」
「……あれ?
羽歌ちゃんと柚って、初めまして?」
「……うん?」
稀沙が首をかしげて、「同じ学校でしょ?」と尋ねてくる。……え?
「あ、えっとね……私は神無月先輩のこと知ってるけど、学年違うし学科も違うから初めましての方がいいかなぁって」



