「純粋に、

神無月で生きてきた分精神力は強い」



それは、彼が褒めたこと。



そして。



「自由を犠牲にして、不憫だなってな」



神無月という存在は、お荷物だ。私にとっても、羽紗にとっても。──ただ、なくなったら、その時は何にも縋れなくなる。



私にとっての神無月は、彼らにとっての──心響、みたいなものだ。



肩書きがなければ、自分はひとりになる。どれだけ、仲間という存在がいても。まとめる名前がなければ、ただの集団。




「なんとなく、

ハチさんとは気が合うような気がします」



「奇遇だな。俺もだ」



ふっと笑ったハチさんが、「ノン」とオーナーに声をかければ、オーナーが私にジュースを出してくれる。



「昼間から酒飲んだってばれたら、

和泉にまた口うるさく言われそうだな」



ガラスが接触することもない、形だけの軽い乾杯。その意味はと聞かれたら、友好の証とでも言っておけばいいんじゃないだろうか。



「ハチさんが自ら乾杯するとか、

すげー珍しいんだけど……」



私とハチさんの席の間で、岬がぽつりと独り言のようにつぶやいていた。