──そして、放課後。
「梓ー」
「あ、陸……ごめん、今日は用事あるから先に帰ってもらってもいいかなー?」
「用事?んー、わかった。また明日な」
「うん、また明日ねっ」
わざわざ来てくれた陸にごめんねと告げて、それからまた明日って笑顔で手を振る。
──たぶん、僕と陸がちゃんと話したのはこの日が最後なんだ。
「日下くん、放課後なのにごめんなさい……っ。
私、隣のクラスの柊 梅葉(ひいらぎ うめは)って言います」
「うん、陸とよく話してるもんねー」
「あ、はい……あの、日下くんこの間髪切ったじゃないですかっ。
その日からって言ったら、嫌な気にさせちゃうかもしれないんですけど」
──確かに、僕はこの間夏を言い訳に髪を切った。
それが意外にも好評で。広がった視界が、前よりも鮮明になったような気がしていた。
「──好き、なんです」
静かな教室に、彼女の震えた声だけが落とされた。



