「うー…」
あたしには「馬鹿じゃないの」とか、そんなことしか言ってくれないくせに。
自分から話す事なんか1回もないくせに。
三波先生には、あんな表情して笑うなんて、ずるい。
サラサラの髪の毛も、ずるい。
大人っぽいナチュラルメイクも、ずるい。
篠宮くんに好きになってもらえるなんて、ずるい…。
涙でぼやけた視界には、歪んだ廊下が映る。
手の甲で、ピンクのグロスを擦った。
手についた明るいピンク色。
甘すぎるストロベリーの香り。
あたしは紅いリップなんか似合わない。
ピンクのグロスの方が似合う。
だけどどう考えたって、
篠宮くんが好きなのは紅いリップだ。



