まだ半分以上残ってるコーヒーを片手に、俺は絵美ちゃんの横を通り過ぎる。
なんの話をすんのかな?
俺とはただの先生と教え子だって話?
それ以上の関係でもないし、自分には好きな人がいるとか話しちゃうのかな?
そんで、“好き”とか言うのかな…。
絵美ちゃん。
俺は、絵美ちゃんに出会って、初めて知ったよ。
恋をすることは簡単だって。
想いを伝えることは簡単だって。
でも。
恋を終わらせることは難しくて。
振り向いてもらえないことは難しくて。
けど、惚れた弱みは実在するって。
絵美ちゃんが好きになった人は、絵美ちゃんを“好き”って言ってくれるといいね。
『…航汰くん…!』
不意に絵美ちゃんの声がして、俺は立ち止まる。
『勉強するなら、私も付き合う』
俺は絵美ちゃんのその言葉に振り向く。
何、言ってんの?
早く、その男の誤解を解けよ?
『あ、俺、大丈夫なんで。
もう合格安全圏だし』
俺はピースサインを絵美ちゃんに送る。
でも、絵美ちゃんは、その人にお辞儀をして、カバンと食べかけのアイスを持って、俺の元に歩いてきた。
俺のすぐ傍にくると、絵美ちゃんは無言で俺が持っているコーヒーを奪う。
そして、自分の食べかけのアイスとコーヒーのカップを返却口に返しに行った。
俺はまっすぐ出口に向かって、早歩きをした。
そして出口を出たところで、絵美ちゃんも小走りで出口にやってきた。
絵美ちゃんが出口のドアを開け、外に出てくる。
音でそのことを理解して、でも俺は振り向かずに早歩きで進んでいく。
『……待って!』
絵美ちゃんは出口を出たところで、小走りで俺のところにやってきた。
追いつかれ、そして絵美ちゃんは俺の前に先回りする。
二人の視線が合って、絵美ちゃんが止まるから、俺も止まって。
『勉強するなら私も一緒に』
『来んなよ』
俺は絵美ちゃんの言葉を遮る。
『……え…?』
自分でも思った、こんなに低い声が出るんだって。
絵美ちゃんも驚いてた。
『なんで、来んの?』
俺の問いかけに,絵美ちゃんは一瞬黙る。
でも、
『今日は航汰くんのお祝いできたから…航汰くんが勉強するなら私も一緒にやる…』
『今日は家庭教師の日じゃありませんから』
俺はそう言って、絵美ちゃんの横を通り抜ける。
でも、通り抜けた、そう思った時,絵美ちゃんは俺の腕を掴んだ。
『…何?』
『…………』
何も口にしない絵美ちゃん。
ほら、もう後悔してるくせに。
先輩の誤解を解かなかったこと。
もう先輩のところに戻りたいとか思ってるんじゃん?
だったら、戻ればいいじゃん?
『戻れば?』
俺がそう声をかけると、絵美ちゃんは首を横に振った。

