暗闇の恋

インターホンが鳴った。
出ると、歩がいる。
どうして歩がいてる?
あっ携帯!
そう思って机に置きっ放しにしていた携帯を手に取る。
着信が3件とメールが入っていた。
メールを開けると、会いたいから今から行く。
と、あった。
会いたい…なにがあったんだ?
再度インターホンが鳴った。
出るかどうか迷ってしまう。
この前あんな帰り方をしてから、一切連絡をしていない。
風邪引いたと理由にしたけれど、どこまでそんな理由が通ってるかがわからない。
ドアスコープから覗くと歩は今にも泣きそうな顔をしていた。
覗きながらドアノブに手をかけるが鍵を開けることを躊躇う。
ドアスコープから見る歩が踵を返し去っていく。
俺は目を閉じた。
このまま返していいのか…。
呼び止めるか…。

俺は鍵を開け、ドアを開けた。
「歩っ!」
俺の声に反応し歩が振り返る。
「虎ちゃ〜ん!!!」
歩は泣いてた。
裸足のまま駆け寄り抱きしめた。
「何泣いてんだ?何かあったのか?」
静かに俺の腕の中で歩は首を横に振る。
「何もないわけないだろ?」
それでも横に首を振る。
俺は両手で包む様に歩の顔に触れた。
「歩…」
そのままキスしてしまいたくなる。
理性がそれを止める。
「泣くなよ…」
涙を拭う。
歩は子供のように泣きじゃくる。
小さい頃からいつもこんな泣き方だ。
こんな泣き方の時は凄く苦しくて辛い時。
言いたい事伝えたい事があるのに、それを言葉で表せれなくて苦しい時だ。
「歩…とりあえず家に入ろう。」
「おじ…さ…ん…」
「親父は出張でいないよ。だから大丈夫。」
親父はいない。大丈夫。
なんて説得力のない言葉なんだと思った。
泣いてる姿を見られたくない歩にとってはいいかもしれないが、邪な気持ちがある男にとっても好都合な環境だ。
こんなに泣いてる歩を前にしても俺は自分の欲を通したいと思ってしまう。
家の中に入ってソファに歩を座らせた。
温かい飲み物がいいと思ってミルクを温めた。
「はい、ホットミルク。温まるよ。」
「ありがとう。」
歩の手にマグカップを持たす。
俺は少し離れた場所に腰を下ろす。
隣に座れる程、理性が強くない。
「おばさんには連絡してる?」
うんと頷いた。
少し落ち着いたのか、泣き方は啜り泣く程度になった。

理由なんて聞かなくても歩が泣いてる理由はわかってる。
俺の知らない歩の好きな相手の事だ。
この前から俺の知らない歩ばかりだ。
今まで見たことのない表情を見せてくる。
その表情が俺発信じゃないことに、ただただ腹が立つ。
「少しは落ち着いた?」
「うん、ごめんね…虎ちゃんに会うまで我慢してた分声聞いたら泣いちゃった…。」
なんの邪心もなく無邪気に言う歩が憎らしい。
俺の気持ちなんて知る筈もない歩は俺にとって残酷なことをサラッとしてしまう。
今の言葉は信頼してくれてる面で嬉しく思う。反面そこまでその知らない奴が好きなんだと突きつけられる。
この間から俺の心は撃たれすぎて蜂の巣の様に穴だらけだ。
それでも俺は歩に手を差し伸べてしまう。
「何があった?」
沈黙が流れる。
「…虎ちゃんは好きな人いるの?」
「えっ…」
突然の質問に驚いてしまう。
「あぁいるよ。」
「嘘っ!?知らなかった…どんな子?」
歩、君が好きな人なんだ。って言えたらどんなに楽なんだろうと考えてすぐに、その考えを打ち消す。
「う〜ん、そうだな…明るくて可愛い子だよ。」
「彼女なの?」
「いや、俺の片想い。」
「そっか。私と一緒なんだ…」
そう一緒だ。俺はこの先もずっと片想いだ。
「俺のことはいい。歩のことを聞いたんだぞ!何があったんだ?」
「この前話した好きな人…彼女さんがいたの…一緒に暮らしてた。」
「なんでそう思った?」
「思ったんじゃなくて家にいったの…彼女さんに会って、助けて貰ったお礼言ってないって言ったら家においでって…でも言ったら好きな人と彼女さんの気配だらけの部屋でいるの辛くて帰って来ちゃった。なんでかここがモヤモヤして辛かった。」
そう言って歩は辛そうな顔で胸を押さえた。
歩…それは嫉妬って言うんだよ。俺がこの間から抱えてるのも嫉妬だ。
「そっか…辛かったな。」
「虎ちゃん…」
そう言うと歩は隣に座ってと言う様にソファの隣をポンポンと叩いた。
それは反則だ。
その呼び方はかわいすぎる。
俺は溜息を漏らした。
理性で自分を抑えながら歩の隣に座った。
俺が座ったのを確認すると歩は腕の中に入ってきて俺に抱きついた。
いやぁぁぁぁそれは理性が負けてしまうだろ!!
小さい頃と違って今は当たる柔らかい感触がある。
ここで俺が歩を抱きしめてしまえば確実に理性が遠い彼方へと吹っ飛ぶ。
「歩…ちょっと離れて…」
「なんで?もう少しこうしてたい。虎ちゃんに抱きしめてもらえると安心できるの。だから、こうして…」
そう言うと体勢を変え俺の腕を持つ様になった。
俺が歩を背後から抱きしめる形になった。
歩は俺の腕を自分の前で交差させて持っている。
手のひらに歩の胸の膨らみが当たりそうになる。
俺は必死に手を反った。
歩は一層強く俺の腕を掴んだ。
反らしてた手は無駄になった。
手のひらに膨らみが当たった。
俺の理性は微塵もなく砕け散った。
思わず歩の胸の膨らみを触る。
弾かれる様に歩が俺から離れた。
その表情は強張っている。
「虎ちゃん…?」
もう隠し通せない。
隠し通すつもりもない。
「歩…さっき言った好きな人は君なんだ。」
「う…そ…。そんな…そんなこと一度も…」
「あぁ言ってないよ!言った困るだろ!?君はまだ16だ。俺は22。だから歩が高校を卒業する時まで言わないでおこうって思ってた。なのに…なのになんで他の…俺の知らない奴を好きになるんだよっ!?」
一度壊れた壁は直せない。
「歩、俺はずっと初めてあのピアノ教室で会った時から歩を好きなんだ。」
離れたままの歩に近づく。
歩はビクッと体を小さくする。
「ごめん…怖がらせるつもりはなかったんだ。本当ごめん…」
「虎ちゃん…泣かないで。」
歩への気持ちが涙になって溢れた。
「ごめん…。」
歩は泣く俺を優しく抱きしめてくれた。
怖い思いをさせたのに、そんな俺を抱きしめた。
俺は歩の胸の中に入れたと思った。
顔を上げると歩の顔がある。
そのままゆっくり体を伸ばす。
歩は後ろに倒れた。
俺は歩の目の前に顔を近づけた。
歩は見えない。このままキスをしようとしてもバレないかもしれない。
でも、もう怖がらせるとこはしたくなかった。
「歩…俺…歩にキスがしたい。歩を俺の物にしたいんだ。」
歩は黙ったまま。
「そんな奴のことは忘れてくれないか?俺が歩を大事にするから。」
歩はゆっくり首を縦に振った。
えっ今うんってことか?
ちゃんと確かめたい。
「歩の声で聞きたい。」
「うん…虎ちゃんがいいなら。」
「俺が駄目なわけないだろ!」
「よろしくお願いします…。」
そう言って少し照れた様に笑った。
「マジ!?これ夢じゃないよな??」
「うん…。」
「やったぁぁぁぁ!!!」
俺はソファから飛び起き喜んだ。
歩も体を起こし俺を見て笑ってる。
「歩…帰ろう。」
「えっ!?」
「おばさんに報告しなきゃ!」
「それはまた今度でいいよ…虎ちゃん、喜びすぎなんだから…。」
「歩…大切にするから。」
そう言って歩のおでこにキスをした。
くちびるには出来なかった。
本当に大切にしていきたい。
それから二人で隣同士に座り黙っていた。
気持ちが通じ受け止めて貰えてそばにいることが、こんなに幸せなことだとは思ってもみなかった。
どのくらいそうしてたんだろう、歩の携帯が鳴った。
「お母さん…うん、まだ虎ちゃん家。うん、大丈夫……お母さん、今日虎ちゃんとこ泊まっていい?」
えっえっえぇぇぇぇ?と、泊まっていい?ってどうゆう事だ?
これはなんかの罠なのか?
「ううん、朝一旦帰って学校行くから。ありがとう。じゃね。」
電話を切った歩は俺を見て
「泊まるって言っちゃった。」
と、笑った。
大切にしていきたいって思ったばかりなのに邪な考えが次から次へと浮かんでは消えていくことなく、どんどん浮かんでくるから俺の頭の中は爆破寸前だ。
一気に大人になった歩にたじろんでしまう。
これじゃどっちが大人なのかわからない。
「泊まるってどうゆう事かわかってるのか?親父いないんだぞ!?」
「うん、わかってる。でも大事にしてくれるんでしょ!?」
歩は天使じゃなかった!小悪魔だ!
俺は試されてるのか…幾ら理由があってもこれは回避できない。
「わかった。とりあえず晩御飯にしよう。」
俺は苦し紛れにそう言うことしか出来なかった。
とりあえず晩御飯の間に考えるしかない。