「……あ、白鳥」


ぽつりと桐谷が呟いた。

カッターシャツの胸元は、相変わらずはだけたままだ。


「はくちょう?」


指差す方向を目でたどる。

空にひとつ浮かんでいる白。


ふわりふわり、漂うそれは確かに鳥のように見えなくはないけれど。


「……ビニール袋じゃん」


溜め息まじりに呟いた。

スーパーでは有料化してる、それ。


「いや、あれは白鳥」

「えー」

「あ、雲かも」


そう言って、笑う。

まあ、鳥より雲のほうが説得力はあるかもしれない。


「ふーん、雲ねえ……」

「そう、雲」


呟いて、桐谷は静かに瞼を閉じる。


現実離れした綺麗なその横顔を盗み見ていると、引き戻すようにチャイムが聞こえた。