「またね」 思えば、あの日のあの瞬間。 もう、わたしは桐谷に惹かれていたのだと思う。 「……またね、って」 反則だ、と呟きながら、呼吸を整えた。 休み時間のざわめきは、階段の一番上のこの場所まで伝わってきていて。 余計に、この扉の向こうが異世界のように思われた。 叶わないと分かっていたのに。 叶うはずがないと知っていたのに。 どんどんその深みに嵌まっていく自分は、このときのわたしから見たら、さぞ滑稽なのだろう。