「桐谷」


澄んだ冬の空気を吸い込みながら、ゆっくりと息を吐く。


「これ、食べて」


教室を出るときに指先に引っ掛けた紙袋。

その中から箱を取り出して渡すと、桐谷はその箱を開けた。


「トリュフ?」

「うん」

「よっこが作ったの?」

「……うん」


何でもない振りをして、そっけなく頷く。

本当は、本命チョコなんて作ったの初めてで、桐谷がどんな顔をしているのか気になって仕方がない。

でも、その表情を見る勇気が出なくて、じっと足元を見つめていた。


「……ふーん」


桐谷のために、桐谷のことばっかり考えながら、桐谷に食べてほしくて作ったんだよ。

……なんて言ったら、どう思われるかな。重いかな。


そんなことを思いながら、風の音を聞いていた。

桐谷が巻いてくれたマフラーが暖かい。


もう桐谷は箱を仕舞ったかな、どうかな。


「よっこ、口開けて」

「え?」


不意に呼ばれた名前。ぱっと顔を上げると、口に広がったチョコの味。