「よっこ、真っ赤」

「うっさい」

「かーわいー」


くすくすと笑い声混じりのテノールがすぐ耳元で鳴った。


もうやだこの人。

本当に、タチが悪い。



「よっこー」

「……うっさい」

「怒んないでよ」

「怒ってないし、恥ずかしいだけだし……っ!!」

「なに、さらっと可愛いこと言ってんの」


知らない、知らない。

もう知らない、桐谷のことなんて。


赤く染まる頬を隠すように俯く。

すると桐谷は、くすくすとまた笑いながらこう言った。


「……ねえ、よっこ」

「……」

「明日終業式って、知ってた?」


唐突に鼓膜を振動させた言葉。

普段、学校のことに疎い桐谷から、そんな話が出てくるとは思いもしなくて。

ぱっと顔を上げると、桐谷は楽しそうに笑った。



「夏休み、どっか行こっか」



唇に、キャラメル味の桜色が降った。






  ―fin―

「機嫌、直った?」
「もうやだ桐谷やだ」
「そんな真っ赤な顔して言われても」

(甘ったるさに酔いしれろ。)