「失礼します」


職員室のドアを軽くノックし、中に入る。


「おー、松村」


ひらひら手を振る担任の机に向かい、日誌を渡す。

豚まん、と呼ばれている担任は、ふくよかなお腹を携えて、バリバリとお煎餅を食べていた。


「いつも悪いなー」

「いえ、大丈夫ですよ」


じゃあ、と言って踵を返そうとすれば。


「あ、待て待て、松村」

「はい?」

「良いものやるよ」


そう言って、自分の引き出しを漁りはじめる。

ちらりと見えたその中は、お菓子で大半が埋まっていた。


「お、あったあった」


手出してみ、と言われ、鞄を持っていないほうの左手を出せば。


「……キャラメル、ですか?」


その上に乗ったのは、白っぽい紙に包まれている直方体。

久しぶりに見たな、なんて思いながら問うと、それ以外に何に見える、と笑われてしまった。


「この前大量に買ったんだけどな、あんま腹膨れないんだわ」

「そうですか」


ありがとうございます、とお礼だけ言って、スカートのポケットにキャラメルを突っ込んだ。

職員室から出ると、さっきより少し橙色に染まりつつある空があって。



「……キャラメル、かあ……」


歯に引っ付く感じがあまり好きではないのだけれど。

そういえば、桐谷は好きだって言ってたっけ。


ふと頭をよぎるのはまた桐谷のこと。

ひとつ思い出せば、眠っていたいつかの記憶が鮮明に蘇ってきた。