「れーんっ? どうしたの?」 媚びるような女の子の声が聞こえたのを合図に、わたしの足は弾かれたようにその場から退いた。 ガタガタッ、と派手な音を立ててしまった気がしたけれど、そんなのもうわたしの知ったことじゃない。 痛い。 痛い。 痛いよ、桐谷。 心臓が大きな悲鳴を上げていて。 無我夢中で夏の廊下を疾走した。 むわりと纏いつく風も、授業中の教室も、リノリウムの床も、すべて無視した。 あの視線を振り切るように、逃げるように走った。 ただ、ひたすらに。