太古の昔から変わらない姿で、いまも生き続けている植物って知ってる?

 見た目は巨人とあまり変わらなくって、大地に張った根を見て初めて植物だと分かるの。進化を必要としない究極の生命体なんだって。

 いまでも、そう言った幼い頃の妹の言葉を良く覚えている。

 たしか、両親と妹と四人で、祖父が勤めていたこともある近くの植物園に行き、その中に併設された熱帯植物園『トロピカルドーム』を見学しているときだった。

 人工的にドーム内に降らされると雨と熱気。その中でザワザワと蠢いていた熱帯植物を見ていたら、妹の言ったことがなんとなく信じられる気がした。

 それから数年経ち、高校生になった俺は、再びトロピカルドームを訪れた。

 初めてできた彼女の恵と一緒に。

「翔太は私の理想よ。」

 才色兼備の恵は学校の内外問わず人気があり、いわゆるモテる女だった。

 俺はそんな彼女に好かれるために、理想の男を演じていた。

「俺はそんなにかっこいい男じゃない」

 俺の言葉を聞いた恵の顔に、一瞬軽蔑の色が見えた。

「翔太はかっこいいわ、いまのまま絶対に変わっちゃだめよ」

 恵のいう理想の男というは、具体的に言葉にすることは難しい。

 少なくとも、自分で自分のことをかっこよくないと口にする男は理想から外れているらしい。

 トロピカルドーム内で、けたたましい鳥の鳴き声がスピーカーから流れてきた。

 これが、ホームページなどで宣伝されている人気のイベント、人工スコールの合図だった。

 俺は恵の手を引いて、スコール時に身を寄せるために作られた「雨宿り木」まで走り出した。