春斗とは、あのあとすぐにさよならをした。
“また夜に電話かけるね”と、約束して。
そして今は、夜の7時を少し過ぎた頃。
私は自分の部屋をそっと出て、1階のリビングへと向かう。
───ドクン、ドクン。
心臓が、普段ではありえないくらいのスピードで動いているのが分かる。
「大丈夫……大丈夫……」
自分の心を落ち着けるように、小さな声で自分に大丈夫って言い聞かせる。
私はひとつ息を吐くと、目の前にある扉をカラカラと開けた。
「お、心咲」
茶色のソファに腰かけて雑誌を読んでいたお父さんが私に気付き、目尻を下げる。
リビングに入ってすぐ左手側にあるキッチンに目をやると、お母さんはいつものように夕飯を作っていた。
でも、私には分かるんだ。



