「いらっしゃいませ」


お客が去った後のテーブルの上を片付けながら、亜紀さんの声につられて「いらっしゃいませ」と、笑顔で振り返る。


「……って、なんだ、先生か」


喧嘩を売るつもりはないけれど。


「おいおい、“なんだ”はないだろ」


思わず出た私の余計な一言に、先生が眉間に皺を寄せる。


「ここを紹介したのは誰だと思ってるんだ。全く、いまどきの若者ってのは……」


ブツブツ言いながら、「いつもの」とマスターに声を掛けると、お決まりのカウンター席に腰を下ろした。


「どうだ、慣れたか」

「はい、マスターも亜紀さんもよくしてくれてるので」