おずおずと手を出す私の手を、音遠くんはギュッと握った。
「!?」
指の間に噛み合うように指を入れ、手のひらをくっつけた繋ぎ方。
こ、これは……
「音遠くん!?これ、恋人繋ぎじゃん?!」
「うん。そうだよ?だって今日だけ、僕らは恋人同士って事になってるんだから」
うう……
前には、ふらふらとコースアウトしそうになる颯馬さんを引っ張る阿弓の姿が見える。
親友をここまでして騙すなんて、我ながら酷いと思うけど……
意地張って嘘ついた私が悪いんだよね。ここまで来たら騙し通そう。
そして、後で別れたとでも言っておこう。
観念して私は大人しく彼の手を握り返した。
「ふふ、蝶羽ちゃん、顔真っ赤だ」
「こ、これは照明のせいだよ!ほら、ここの照明赤っぽいから!」
「えー、ホントかな〜?」
いたずらっぽく笑われてしまった。完全に弄ばれてる……
なんだか、同い年なのに年上みたい。ちょっと悔しいな。
ギュッと握られた手を見てみる。
音遠くんの冷たい手が、私の手を包み込んでいた。
改めてそう思うと、なんだか恥ずかしい。
「音遠くん、半分楽しんでるでしょ」
「あはは、まぁね」
「ちょっとー!?」
「だって、さっきから僕が何かするたびに表情変わる蝶羽ちゃん見てると面白いんだもん」
私は玩具か!!
「あ、蝶羽ちゃん、この絵見て」
私が怒り出す前に、逃げる様に話題を変えられた。
音遠くんが指さしたのは、油絵。
絵画に全くと言っていいほど無知識な私にはよく分からないけど、不思議な絵だった。
中央に立つエプロンドレスを着た女の子の周りに、赤と赤紫の薔薇が襲いかかるように生い茂っている。
女の子は、恐怖に顔を引きつらせてるようにも見えるし、この状況を楽しんでるように妖しく笑ってるようにも見える。

