「こ、このスケベ男子共めぇ~っ!」

だが、春子を心配する礼士以外で、たった一人、真面目な表情を保っている人物がいた。

中川猛であった。

中川猛は、メガネを中指でクイッ、と押し上げながら、静かに話し始めた。

「…では早速、奇術同好会を見事消し去る、もとい、観客の一人が指定したトランプのカードを見事消し去るマジックを、我々にご披露頂けますかな?

松永春子さん!」

その言葉に反応した、観客の男子達が、にわかに盛り上がりを見せ始めた。

「いよっ、待ってましたっ!」

「ボディチェックは、俺達にバッチリ任せて安心してマジックやっとくれ、松永!」

「あ…安心できるかっ!




…コホン!で、では、今より奇術同好会のメンバーである、私、松永春子が皆様にお目にかけます、トランプのカード消失マジック。

どうぞ大いに、驚き下さいませ。

…今、私の右手にハートのJ、Q、K、そしてAが握られています。

さて、この四枚のカードの内、一枚を皆様の前で消し去りたいと思いますが、ええと、それではそこに立っている彼女に選んで頂きたいと思い…」

「ちょっと待った!確か、彼女は松永さんと、いつも一緒の仲良しさんの清水ゆう子嬢ではございませんか?

…な~んか、怪しいなあ。

いえ、ね。無いかとは思いますが、サクラ(マジックの協力者)だったら、どうしようかな~なんて、思っちゃってるわけです。

疑い深くて、失礼、失礼。

もしよろしければ、私にカード、指定させてもらえませんかな?」