その日の晩、春子は湯船につかりながら、今日一日かけても結局解決しなかった、トランプ消滅トリックの事を考えていた。




-駄目だ。やっぱり不可能じゃないの、このマジック?

…マジックの後で、僕かハルちゃんが、指定したカードを隠し持ってないかどうかまでチェックされるだって?…-

-燃やす訳にもいかないし、どうすれば、ある物を消せるのかしら?-




「あーっ、駄目!ぜんっぜん、分かんない!

…それに、何よ、あのヒント。

『→←↑↓〓∈∋⊆』

ですって!?

あんなヒントで、解るか!

礼士先輩に作ったお弁当、食べちゃったんだから、意地悪するんじゃないっての!」

湯船の中で、バシャバシャやる春子。

-でも、これがヒントって言うんだから、ヒントなのよね…

唯一今解ってる事は、なぜかこのヒントの部分だけ、パソコン打ちでは無く、鉛筆で書かれてある事。

一体、どう言う事かしら?-

お風呂からあがり、少しお腹がすいた春子は、冷蔵庫にあった『粉裳礼美堂のあんみつ』を取り出し、口にほおばった。

「ああ…なんて上品かつ、心とろける様な味わいなのかしら?

口の中であんと寒天、干し杏が渾然一体となり、この世の春を思わせる、心地よい風が…」

「…バカ姉貴が、馬鹿な解説しながら、あんみつ食ってらあ。

って、それ、俺のあんみつじゃねえか!

晩飯前に、自分の分食ってたじゃねーか!

返せよ、このブス!」