「ーー美沙を、返してくれません?」




誰か来た、そう思って咄嗟に右手で泣き顔を隠そうとした私の耳に届いた声。

それは優也くんのクラスメートじゃなくて、やけに聞き慣れたものだった。

顔を見なくたって、誰かなんて分かる。

何で、そう思うのに顔を上げられない。




「やだな、返してってさっちゃんは僕のものなんだけど?」


「うるせぇーよ、クズ」




口が悪くて、だけどやっぱりいつでも私の味方でいてくれる。

そんなの、天谷、貴方しかいないよ。




「美沙から、離れろよ」


「だーから、さっちゃんは僕のーー」


「殴るぞ?」




私の前に立つ優也くんに近付いて、そう放った天谷の声は本気だった。

本当に殴りそうなほど、怒りに震えていた。




「お前は、美沙を必要としてないだろ?」




私も優也くんも何も言えず、何もすることが出来ず、ただその声に耳を傾ける。




「……でも、俺には必要なんだよ。正直、こいつが手に入るなら何手放しても惜しくねぇ」