────老若男女幅広く手がけるアパレルメーカー社長の、一人息子。
気づいたら俺は、そんな位置にいた。
いろんな目線を向けられて。
たくさんのことを影で言われて。
でも俺は、どこか他人事で。
まるで肩書きが一人歩きしているみたいだった。
突然のことに、実感が湧かない。
本当にお父さんはそんなすげぇヤツになったのか?
社長のお父さんを目の当たりにはしてないから、俺は本当なのかも曖昧だった。
でも、お父さんが『この家に引っ越すぞ』といって見せてきたパンフレットを見て、俺はやっと実感した。
───今の家とはまるっきり違う大きな家。
ここからすごく遠くはないけど、海からは離れてしまうその場所。
海が見えない、その場所。
そう思ったらギュッと胸が痛くなって、昔のことを思い出した。
『───お父さんとお母さんは海が好きだからなぁ。結婚するまえから海の近くでずっと暮らそうって話してたんだ』
『私、あそこの家から引っ越したくないなぁ』
『じゃあ、さんにんで、ずっとあの家でくらそうぜ!』
浜辺に座って笑う、幸せだった頃の俺たち。
もう叶わない約束。
なんとも言えない気持ちがこみ上げる。
悲しいのか、何もできなかった俺自身にムカついてるのか、時間を戻せないのがもどかしいのか、どれだかわからない。
いや、多分全部。
全部の感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、俺はリビングを飛び出した。
気づいたら、また海にきていて。
もうここに簡単に来ることもできねぇのかと思って、気づいたら涙がこみ上げてきた。



