真実と嘘〜Truth or Falsity…*〜【下】



お父さんは無言でお母さんの手から『離婚届』と書かれたその紙を受け取って、ペンを握って動かす。



ずっと前から知っていたとでもいうように、静かに着々と紙が埋まっていく。



そしてその紙がお母さんの手に戻ると、お母さんも静かにリビングの椅子を立ち上がった。




そんな様子を俺はぼーっと眺める。





────なんだこの気持ち。


悲しいはずなのにな、悲しくねぇ。


なんも思わねぇんだ。


だってそうだろ?


他の人を愛しちゃったってなんだよ。

何してんだよ。

意味わかんねぇよ。





──俺のこともお父さんのことも、その程度にしか愛してなかったってことかよ…?





別に悲しくなんかない。



ただ俺には、まだ愛やら恋やらはピンとこなくて。



お母さんに失望することしかできなかった。



荷物を手に持って、玄関に行くお母さんを無表情で見つめる。


お母さんは玄関を出る前に、振り向いて一言。





『バイバイ』



寂しそうに笑った綺麗な顔が、家を出るとき最後に見えた見慣れた白のワンピースの裾が、一生消えないんじゃないかってくらい頭に強く刻み込まれて。




悲しくはないはずなのに。



片方の目から一粒だけ涙がこぼれた。