違うなら、なんで。
幸せだったじゃねーかよ。
平凡だけど、幸せだったじゃん。
意味わかんねぇ。
いきなり帰ってきたと思ったらなんだよ。
なぁ、俺この一年でめちゃめちゃいろんなこと頑張ったんだよ。
完璧には程遠いけど、完璧になれるまで頑張るから。
お母さんが望むことは、なんでもするから。
だから。
──────“捨てないで”
そう呟くのと同時に俺の目からは涙が溢れて、お母さんはぎゅっときつく俺を抱きしめた。
『違う、違う。違うの茜』
震える声でそう言うお母さんの声は本当に悲しそうに聞こえて、望んでする離婚じゃないのかな、淡い期待が浮かんだ。
ならそんなの…って、言おうとしたけど俺の期待はすぐに砕かれた。
『他の人を、本気で、愛しちゃったのっ…』
震える声でそう言うお母さんに、辛そうに言うお母さんに、俺はなぜか冷静に心の中で呟いた。
───あぁ、この人がさっきから苦しそうに笑ってたのはただの罪悪感か、って。
そう考えたらどうでもよくなって、俺は、『…もう、いいよ』冷たくそういってお母さんから離れた。
弁解したそうに罪悪感から逃れたそうに歪んだお母さんの顔を視界の端に追いやると同時に、今日は仕事を休んだらしいお父さんが俺らのいたリビングに顔を覗かせた。



